歯科衛生士の就職先の大半は診療所の歯科衛生士ですが、最近は「訪問歯科」の求人もよく目にします。
ブランクあけの復帰や転職先として「訪問歯科」を検討される方もいますよね。
働く側として気になるのが果たして自分に務まるのか?ではないでしょうか。
こちらの記事では、訪問歯科で働く歯科衛生士の大変なところや、外来より働きやすいと言われる理由を解説していきます。
私自身、訪問診療を行っている歯科での勤務経験があります。
目にしてきた事実も踏まえて、説明しますね。
- 訪問歯科に転職・就職しようか検討中の歯科衛生士
- 訪問歯科での歯科衛生士の仕事が知りたい人
【知らない人はチェック】訪問歯科での仕事、イメージできる?
まずは、訪問歯科の概要を簡単に説明します!
どんな働き方になるのか、ざっくり知っておきましょう。
もっと詳しく知りたい人には、こちらの書籍もおすすめです。(両方訪問初心者向け)
訪問歯科とは
訪問歯科診療とは、歯科医師や歯科衛生士が患者さんの個人宅や施設を訪問し、歯科診療をおこなうサービスのことです。
訪問歯科の目的は、患者の口腔健康を維持し歯科疾患の予防や管理を行うことで、生活の質を向上させることです。
訪問歯科で訪問できる場所も決まっています。
簡単に言うと、患者さんが寝泊りしている場所です。
訪問OK
個人宅や介護老人保健施設、特別養護老人ホームなど患者さんが寝泊りして生活している場所
訪問NG
デイサービスやデイケアなどの通所サービス
他にも細かく利用条件がありますが、今回の本題ではないので省きます・・・
どんな患者さんを対応するの?
訪問歯科は原則として自力での通院が困難な人のみの利用に限られています。
なので、高齢者や身体的に制限がある方が対象となります。
利用者のほとんどは高齢者なので、日本の高齢化が進むに伴い今後も需要が増える分野と言えます。
歯科衛生士の仕事内容
訪問での歯科衛生士の仕事内容は主に次の4つです。
- 口腔ケア
- 摂食嚥下のリハビリ
- 口腔衛生指導
- 治療のアシスト
患者さんは高齢者が中心になります。
なので、最初は義歯の製作や調整、歯が痛い・抜けた・欠けたなどに対応する治療が多くなります。
そのような主訴が落ち着いたら、定期的な健診や口腔ケア、リハビリを歯科衛生士が担当していきます。
治療からメンテに移行するのは、外来と一緒ですね。
勤め先に訪問歯科コーディネーターやドライバーがいる
訪問歯科の診療時は歯科医師・歯科衛生士・訪問歯科コーディネーターの3人チームで動くのが一般的です。
メンテ移行後は歯科衛生士だけで訪問することもあります。
- 歯科医師
- 歯科衛生士
- 歯科助手
- 訪問歯科コーディネーター
- ドライバー
機材の運搬や運転、訪問のスケジュール調整、場合によっては営業活動まで幅広く担当する職種です。
歯科助手のように診療のアシストをすることもあります。
もう少し仕事が限定的な、ドライバー(運転+機材の準備・運搬メイン)が在籍しているパターンもあります。
コーディネーターやドライバーが在籍していない場合は、歯科助手や歯科衛生士が運転や調整業務も担当します。
勤め先スタッフ以外との関りも多い
外来で関わるのは、勤め先のスタッフと患者さん本人のみのパターンが多いですよね。
訪問歯科では、患者さんの周りの人々との関わりも多くなります。
- 患者さんのご家族
- ケアマネージャー
- ホームヘルパー
- かかりつけ医
- 訪問看護師
- 介護施設職員
- 理学療法士
- 作業療法士
- 言語聴覚士
- 薬剤師
歯科衛生士も他職種と関わり、情報共有や助言をする必要があります。
患者さんの介助者への説明も必須です。
働き方はざっくり3パターンある
訪問歯科の歯科衛生士として働くには、次の3パターンが主流です。
- 訪問専門の歯科で勤務
- 外来+訪問を行なっている歯科の訪問部で勤務
- 外来+訪問を行なっている歯科で両方兼任する
他にも、正社員で外来で働き、副業として訪問歯科にバイトに行く等のパターンもあります。
訪問で働く歯科衛生士の1日の流れ
訪問歯科で働く歯科衛生士の1日は、どんなスケジュールでしょうか。
ある訪問歯科の一例をみてみましょう。
【本題1】訪問歯科衛生は大変!辛い!と言われる理由8選
訪問歯科は「外来より大変」という声を見かけます。
その理由を見ていきましょう。
- 外来以上にコミュニケーション力が問われる
- 摂食嚥下や全身疾患、服薬の知識が必要
- 口腔ケア時の誤嚥への配慮が常に必要
- トラブル時の判断力、対応力が問われる
- セクハラ、暴力の心配(特に個人宅、単独訪問時)
- 移動が多く、診療環境が快適でない場合もある
- 書類仕事が多い
- 担当患者さんが亡くなってしまう辛さ
外来以上にコミュニケーション力が問われる
訪問診療は外来以上にコミュ力重要!
とされる理由は、色々あります。
前提として、訪問での施術は一筋縄でいかない場合が多いです。
その中でも、上手く声掛けや説明をして対応する力が必要になります。
外来の場合は、基本は患者さん自らの意志で歯科に来ているので施術に協力的ですが、訪問歯科は違います。
ご家族や、ケアマネの提案で診療がスタートすることも多々あります。
ご本人的には、施術の必要性を理解・納得していない場合や、認知症等で理解できない可能性もあります。
摂食嚥下や全身疾患、服薬の知識が必要
訪問歯科での歯科衛生士の役割のひとつが、摂食・嚥下のリハビリです。
リハビリの具体的な方法までは教えていない学校も多く、自分で情報収集して学ぶのが大変だと感じるかもしれません。
高齢者のかかりやすい病気の知識や、服薬についての知識も求められます。
口腔ケア時の誤嚥への配慮が常に必要
寝たきりの場合や、腰痛で深く座れないなど患者さんの状況は様々です。
正直、施術側としては「見えにくい」「やりにくい」可能性もあります。
そんな中でも、患者さんのケア中の誤嚥への配慮が常に求められます。
そのためのノウハウも勉強する必要があります。
トラブル時の判断力、対応力が問われる
訪問歯科ではイレギュラーやトラブルが発生時に、歯科衛生士だけで対応しなくてはならない場面があります。
例えば、患者さんを怪我させてしまった場合にはどうするのか?
クレームがあったらどうするのか?
リスクマネジメントができないと難しいでしょう。
臨機応変かつ、冷静に判断・対応するのって慣れていないと中々大変です。
セクハラ、暴力の心配
一定の条件を満たせば、歯科衛生士1人での訪問(単独訪問)は法的に認められています。
単独訪問は、歯科医師がいなくても口腔ケアが行える等のメリットがあります。
その一方、個人宅に1人で行く不安はどうしてもあると思います。
高齢者には穏やかで優しい姿を想像しがちですが、全員がそうではないのが現実です。
なんでも出来る歯科衛生士の先輩が、訪問歯科はちょっと無理かも…と言っているのを聞いたことがあります。
その理由が、まさしく技術面以外での1人で行く不安でした。
移動が多く、診療環境快適でない場合もある
雨風の中でも移動や積み下ろしは発生するので、億劫に感じるかもしれません。
更に、診療環境は患者さんの生活スペースによっては快適ではない可能性があります。
診療所ではいつも冷暖房完備の快適な空間で施術できますよね。
高齢者のいるご家庭では、冷暖房を使わないお宅が結構あります。
書類仕事が多く、診療所に戻ってからの作業がある
訪問歯科では実施記録や報告書作成など、書類仕事が多くなりがちです。
訪問先で使用した器具の洗浄や滅菌作業も必要になります。
1日の訪問スケジュールを終えた後、診療所に戻って作業が発生するため、大変と感じるかもしれません。
担当患者さんが亡くなってしまう辛さ
自分が担当していた患者さんが突然亡くなってしまうこともあります。
また、弱っていく姿を間近で見ることもあるかもしれません。
どうしても、高齢で介護状態の方と関わるとなると「死」を身近に感じる機会が増えます。
【本題2】一般歯科より働きやすいと言われる理由
前項では、訪問は大変!と言われる理由を説明しました。
一方、ブランク復帰や外来に勤めるのが体力的に難しくなってきた歯科衛生士が多いイメージもあると思います。
実際、外来より働きやすいという意見も目にします。
ブランクがある歯科衛生士に人気な理由や、気になるお給料について説明していきます。
ブランクがあっても「働きやすい」と言われる5つの理由
ブランクがある衛生士の就職先として、訪問歯科が選ばれやすい理由を見ていきましょう。
外来と比較して、以下のような5つの特徴があるからだと思われます。
- 帰りが遅くなりにくい
- 時間の融通が効きやすい
- SRP等の細かい技術力はそれほど問われない
- 使用機材が限られているので、覚えなおしが少ない
- 施術ペースが比較的ゆっくり
ブランクがある歯科衛生士は、育児や介護中であることが多いという背景があります。
時間的な制約と技術的な不安を解決できるのが「訪問歯科での仕事」というわけです。
働きやすい理由①帰りが遅くなりにくい
訪問歯科で働く歯科衛生士は、通常の歯科クリニックと比較して帰りが遅くなりにくい傾向があります。
訪問のスケジュールは基本的に高齢者の生活時間に合わせて設定されるので、午前からお昼過ぎごろであることがほとんどです。
そのため、診療が夜遅くなることは少なく、夕方頃には退勤できるクリニックも多いです。
働きやすい理由②時間の融通が効きやすい
訪問歯科が選ばれやすい理由の2つ目は、時間の融通が効きやすいからです。
例えば子供のお迎えのための時短勤務や、学校行事でお休みを希望したい場合もありますよね。
一方、訪問歯科では利用者と自身のスケジュールさえ調整できれば、自分が希望する時間で最大限働く事ができます。
患者の予約や施設のスケジュールに従う必要があるため、完全な自由ではありませんが、正社員でも柔軟に働きやすい環境といえます。
働きやすい理由③SRP等の細かい技術力はそれほど問われない
訪問歯科で働く場合も、一般的な歯科処置や予防に関する基本的な技術は必要です。
ただ、一般歯科で求められるようなSRPやTEKの高度な技術は必ずしも必要ではありません。
ブランクがあり技術面で自信がない…と言う人にも復帰しやすい現場です。
働きやすい理由④使用機材が限られているので、覚えなおしが少ない
訪問歯科では使用する機材が一般歯科と比較して少ない傾向があります。
移動性と効率性を重視するため、必要な機材を最小限に抑えることが一般的です。
機材や器具の管理や操作が比較的簡単であり、覚えやすいといえます。
働きやすい理由⑤施術ペースが比較的ゆっくり
一般歯科の施術は、アポイントがぎっちり詰まっていてスピーディーに捌かなくてはならないことも多いですよね。
訪問歯科で働く歯科衛生士は、通常ゆっくりとしたペースで仕事を進めることができます。
患者の自宅や施設で治療を行うため、一般歯科と比較して予定がより柔軟で、余裕を持って診療を行うことができます。
お給料は外来より稼げる?
訪問歯科への転職・就職を検討する上で、お給料がどのくらいかも気になるポイントですよね。
ジョブメドレーの情報にとると、月収の相場はこちら
外来 25万2,155円
訪問 25万8,277円
そんなに差はないようです。
念のため、他のサイトでも確認してみました。
出典:求人ボックス 歯科衛生士の仕事/訪問歯科歯科衛生士の仕事
やはり訪問歯科と歯科衛生士全体の給与を比較しても、大きな差はなさそうです。
訪問歯科の方がやや高めの給与が期待できます。
ただし、実際には地域や勤め先による差のほうが大きいといえます。
働きやすいなら、新卒からでも可能なのか
ゆったりと施術できるイメージの訪問歯科は、新卒で働くのはおすすめできるのでしょうか?
こちらについては、まずは一般歯科で基礎を学んだほうが良いという声のほうが多いように思います。
その理由はこちら。
新卒の頃は、仕事そのものを覚えるのに必死で、周りを見て冷静に動ける人は中々いませんよね。
高齢者やそのご家族、他職種とも円滑にコミュニケーションを取らなくてはいけないので、社会人経験の浅い人にはハードルが高いといえます。
確かに新卒でも仕事をすることは可能ですが、その場合は就職先選びに慎重になったほうがよいでしょう。
新卒可の求人だからといって、訪問の基礎知識やケアの方法をきちんと教えてもらえるとは限りません。
新卒から訪問に関わりたい場合は、訪問歯科での新卒の育成ノウハウがある医院を探すようにしましょう。
就職、転職時の注意点!自分に合う職場を選びのヒント
訪問歯科への転職で失敗を避けるためのコツとしては、とにかくしっかり情報収集することです。
そして、求人サイトやホームページからの情報収集だけでは不安があります。
できれば、医院の情報を集めて伝えてくれる仲介役(転職エージェント)からも情報を得るようにしましょう。
エージェントとの相性もあるので、複数登録がおすすめです。
1つお試しで登録するなら保有求人数の多いファーストナビ歯科衛生士がよいでしょう。
もちろん、不安な点の相談だけでも問題ありません。
例えば、こんな相談も・・・
直接医院には聞きにくいことも、第三者になら相談しやすいですよね。
【注意】求人サイトからのいきなり応募は失敗しがち
近年は、医院拡大や患者のニーズに答えるために訪問診療をはじめる歯科医院も増えてきました。
もちろん、世の中的に需要もあるので増えることは良いことだと思います。
訪問歯科への転職や就職希望者にとっても、就職先の選択肢が増えるのは有難いことですよね。
ただ、注意すべきなのは訪問歯科を行っている医院が全て教育するまでのノウハウがあるとは限らないということです。
それでも、医院側は歯科衛生士が欲しいので求人サイトには良いことだけを書いて応募を促します。
情報収集手段が、求人情報のみだと就職後に「想像とのギャップ」が生まれやすいです
よくある求人記載と実際のギャップです.
ブランク明けや、技術にまだ自信がない場合はこのような医院に就職してしまうと正直辛いと思います。
求人サイトの情報だけだと、正直細かな医院の内情や教育体制まではわかりにくいため、少し危険です。
なので、医院との仲介役となってくれる転職エージェントを使って探りをいれたほうが、失敗は少ないでしょう。
訪問歯科で働く向き不向き
訪問歯科の歯科衛生士にも、向き・不向きがあります。
- 雑談ができて愛想が良い
- 説明が得意
- 聞き上手
- 柔軟性がある
- 共感力が高い
- 新しいことを学ぶ意欲がある
- 人と話すのが面倒、ストレス
- マニュアル通りに仕事していたい
- 自己成長意欲がない
- 潔癖症
- 環境で体調が左右されやすい
向き不向きについては、こちらの記事に詳しくまとめてあります。
訪問歯科の歯科衛生士は、とにかくコミュニケーションや対応力が重要になります。
まとめ!コミュニケーションが好きな方なら「訪問歯科で働く選択肢」はあり
訪問歯科の大変なところ、働きやすいポイントをお伝えしました。
何を大変と思うかは、個人によるところが大きいです。
この種の大変さは大丈夫!と感じる方も、厳しいと感じた方もいるかもしれません。
働きやすさについては、正直職場による差がかなりあります。
就職先選びはしっかり情報を集めて慎重に行いましょう!
- 外来以上にコミュニケーション力が問われる
- 摂食嚥下や全身疾患、服薬の知識が必要
- 口腔ケア時の誤嚥への配慮が常に必要
- トラブル時の判断力、対応力が問われる
- セクハラ、暴力の心配(特に個人宅、単独訪問時)
- 移動が多く、診療環境が快適でない場合もある
- 書類仕事が多い
- 担当患者さんが亡くなってしまう辛さ
- 帰りが遅くなりにくい
- 時間の融通が効きやすい
- SRP等の細かい技術力はそれほど問われない
- 使用機材が限られているので、覚えなおしが少ない
- 施術ペースが比較的ゆっくり